ネタバレ感想「野獣」(16:24)子供の無邪気さが残酷な結果を招く…やるせない、心に残る映画

観了「哀」

とある田舎でいつものようにふざけあう仲良し二人組。しかし彼らはこの先怒る恐怖を全く予想していなかった…

16分24秒/監督:Jérémv Comte

SAMANSA

辛い…
気持ちの整理ができず、感想を書き始めるまでに時間がかかりました。
辛い気持ちになるけれど、みんなに観て欲しいと思える作品でした。


この作品には蝉の声や蝿が飛ぶ音、鳥の鳴き声がたくさん入っています。
余談ではありますが、日本映画では、蝉の声をあえて流すことにより夏の風流さを表現されているのをよく見かけますが、その作品を見た海外の方は「雑音が入っている」と感じることが多いそうです。

斜めに映された錆びた電車に響く少年の声を聞いて、世界にこのふたりしか居ないのではという不安感を持ちました。
虫の声が大きかったからかな。
少年がふたりで遊びに来るような場所に思えないので、なぜふたりがこんな場所にいるのかも気になります。家出…?

本当に嫌がって助けを求める声と、それを茶化す明るい声。
人の嫌がることを、度を超えて楽しんでしまう子供の無邪気さ…
制御してくれよと願いますが、諭してくれる大人も近くにいない様子。

一泡吹かせた方がポイントをゲットしていくというふざけ合いをしています。
友人が「狐がいる」とビリーに振り返るよう伝えるのですが、騙されないぞと笑って言うことを聞きません。

ふたりの会話から、ビリー少年には父親がおらず、友人にはベジタリアンの両親がいることが分かります。
「自分で狩った動物の肉を食べているわけじゃないだろう」という言葉への返答から、ビリーがリスにBB弾を撃って殺めてしまったことがある過去が語られました。
それに快感を覚えるような子ではないようですが、その経験を武勇伝の様に語る様子に、さらなる不安を覚えました。

立入禁止エリアと思われる場所に侵入。セメント工場かな…?パイプに石を投げて楽しむ様子にハラハラ…
そこにトラックが走ってきて逃げ出すふたり。初めての他人の気配に逆に安心感すらありました。

逃げた先にあった泥沼…石灰?セメント…?何かはわかりませんが、そこにはまってビリーの脚が抜けなくなってしまいます。
あ~…嫌な予感しかしない…

助けるふりをして手を離し、笑う友人。まだまだ危機感がありません。
なんとか抜け出したビリーですが、今度は友人を騙して泥の方へ突き飛ばします。
最初からふざけ合っていたふたりですが、その流れが最悪な展開へ…

友人が泥の中から抜けられなくなります。
「出れない」と、もがくたびに沈んでいく体…
さすがのビリーも助けようと頑張りますが、泥に阻まれ届きません。
友人の体が肩まで泥に埋まってしまったところで、ビリーは助けを呼んでくると走り出します。
行かないでくれと頼む友人の叫び…
ビリーの名前を叫ぶ友人の声を背に、猛ダッシュ。先程のトラックを見つけますが、無人状態。
戻った時、そこには誰の姿も見えませんでした。

無言で歩き出すビリー。
歩き続け、道路に出たところで、車に乗った女性に声をかけられます。
無視するビリーに賢明に声をかけ、助手席に座らせます。

家を尋ねます。
「ディズレーリ?」には無言。
「ストラトフォード?」に対して頷くのですが、このストラトフォードは900kmも離れた場所でした。だいたい東京から福岡までの距離です。
土地勘がないので調べました。

ビリーが知らなそうな遠い場所を言って、かまをかけたのかな?
知っている場所だったとしても、それだけ遠くだと言う気がない意思が伝わりますしね。
ビリーの様子から、帰りたくない複雑な事情が察することができます。

撮影はセトフォード・マインズという、鉱山を挟んだディズレーリの反対側で行われたそうです。
ビリーは、セトフォード・マインズの子で、家とは逆向きにずっと歩いていたんじゃないかなと思いました。

「父親は?」と言う質問にも無言です。
なぜ父親を聞くのかと思ったのですが、場所が鉱山なので、父親の職場に来た子供だと推測したのかもしれません。

賢明に声をかける女性。
ついにビリーが口を開き「ぼくが…友達が…」と呟きます。
「ゆっくりでいいのよ」という言葉に、本当に優しい女性だなと感じました。
思えば、わたしはこの映画を観ながらずっと「ふたりを止めてくれる誰か」の存在を求めていました。
事件が起こってから、止めてくれたかもしれない人物が登場し、安心感とやるせなさが湧き上がりました。

車の前に何か飛び出したのか、急ブレーキで止まります。
ビリーが窓の外を見ると、そこには狐が…

狐がいると言う友人の言葉を信じなかった、まだ無邪気にじゃれ合っていたときの記憶が蘇ります。
去っていく狐の姿に、涙を浮かべるビリー。
そういえば、友人のTシャツの色は狐と同じ色だったな…

タイトルの「野獣」はフランス語で「fauve」。
淡黄褐色の、鹿毛の野獣を表すそうです。
今まで見えていなかった野獣の姿を認識したビリー少年の未来はどうなっていくのでしょうか。

友人を見殺しにしてしまった…
助ける為に、彼なりに最善を尽くしたけれど駄目だった…
事件でしょうか、事故でしょうか…

ふたりは子供だし、悪意があって起きたわけではありません。
なので、わたしは事故と考えますが、亡くなった友人や友人の親のことを考えると言葉に詰まります。

ビリーがふざけて突き飛ばしたのが悪い。
ふたりが立入禁止の場所に入ったのが悪い。
フェンスが壊れていたのに放置していた会社が悪い。
子供を見守っていなかった親が悪い。
原因は色々考えられますが、起こった事実は覆りません。
ビリーの心にはずっと罪悪感が残るはず。
忘れて良いことじゃないよね。

辛い…

わたしの心にも残る映画になりました。

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